働き方改革

「働き方改革」とは

「働き方改革」という言葉が登場したのは、2016年の第3次安倍晋三第2次改造内閣が発足した年でした。少子高齢化による労働人口の減少、柔軟かつ多様な働き方(雇用)の登場、イノベーションの促進と、様々なニーズを背景に政策として推進されています。

「働き方改革」の中には、テレワーク(リモートワーク)による労働力の確保、副業・複業・兼業の容認・促進など大胆な改革案も盛られています。今回は、「働き方改革」を被雇用者とフリーランスの立場、いわゆる働く側から考えてみたいと思います。「働き方改革」のウラ側が見えるかも知れません。

「働き方改革」の背景・少子高齢化

少子化、高齢化は地方だけの問題ではなく、首都圏や大都市の問題でもあります。
日本の生産年齢人口は1997年を境に減少が続いており、他の先進国と比べて減少傾向が顕著となっています。生産年齢人口の推移を海外各国と比較してみると、2000年の生産年齢人口を100として指数化した統計で、2016年にはアメリカは113.5、イギリスも108.8と増加傾向にあります。

一方で、ドイツは94.9と僅かに減少、日本は2016年には89.8と1割以上も減少しています。さらに、内閣府の統計では、総人口が1986年から2016年の間に527万人増加しているのに対し、生産年齢人口は同年間に650万人も減少しているのです。少子高齢化による労働人口(生産年齢人口)の減少は、日本経済を衰退させ、世界での存在感を危うくする大きな問題なのです。

「働き方改革」の背景・総力戦

労働人口の減少だけでなく、「働き方改革」の背景にはイノベーションの欠如による生産性向上の低迷、革新的技術への投資不足が挙げられています。

生産性を向上させるには、イノベーション(技術革新)が必要である、という考えと革新的技術(イノベーション)への投資不足は連動しており、投資(お金)が少ないからイノベーションが日本から生まれず、日本の生産性を向上させる事は難しい、という結論に至ります。

その結果、「働き方改革」の行く先は「一億総活躍社会」の実現という、国家総動員を彷彿とさせる総力戦で国際競争力を高める戦略がとられつつあります。

「働き方改革」3つの柱

労働人口減少の対策として、3つの柱から成り立ちます。

1. 働き手を増やす
2. 出生率の上昇
3. 労働生産性の向上

労働生産性の向上については、前述のイノベーションへの投資不足と連動して対策が謀られるべきです。出生率の上昇については、正規雇用・非正規雇用の格差を縮小する、長時間労働を是正するなどの対策で結婚・出産のハードルを下げる施策が打ち出されています。

「1. 働き手を増やす」については、総力戦「一億総活躍社会」の実現という出生率の上昇に直接関わる女性、高齢化問題の本山である高齢者まで労働人口にカウントしようという大胆な政略です。

また、働き手を増やす=労働人口を増やす目的で、リモートワークを推奨したり、副業(複業)・兼業を容認・促進する事で、一人当たりの生産性を見かけ上向上させる、という報道されない意図もあるのです。

仮に、副業(複業)・兼業が推進された時、一人の労働者は今よりも長時間本業と副業に従事するでしょう。新しい形の長時間労働が登場します。本業では、定時退社で円満な働き方。副業でも週末を利用して、自宅からリモートワークで副収入。

本業+副業で月80時間超の残業、いわゆる「過労死ライン」に匹敵する労働で、労働者一人当たりの生産性は見かけ上大きく向上。それでも、見かけ上残業はゼロ。こんな働き方の改革が進められようとしているのです。

副業(複業)兼業の問題点

副収入が見込める副業(複業)・兼業ですが、現状の税制度では問題点があります。それは、労働者の所得の把握が難しい、という事です。

現在の税制度では、複数個所から給与所得がある場合、確定申告の必要があります。あくまでも所得の申告なので、「一億総活躍社会」全員の性善説の上に成り立つ税制度です。つまり、現状の制度には抜け穴があるのです。

そこで、「マイナンバー」の登場です。現在でも、確定申告書には「マイナンバー」を記入する欄があります。しかし、給与を払っている企業には従業員の「マイナンバー」を国税庁以下関係省庁に届け出る義務はありません。

性善説で成り立つ現状の制度を打破するために、副業(複業)・兼業が近い将来完全解禁された時点で、副業をしている労働者と企業側の双方にマイナンバーの提出を義務化させるのです。そうすれば、税務署は労働者からの確定申告書と企業の財務三表を突き合わせれば、確定申告した労働者全員の本業・副業からの所得を把握し、所得税を労働者から徴収する事が出来るのです。

一方、企業は支払った給与を経費計上出来ますから、企業にとっては節税対策になります。マイナンバー制度を拡充するタイミングは、「働き方改革」で副業(複業)・兼業が完全解禁された時でしょう。その時、本業でも副業でも労働者は働けば働いた分だけ、税金を徴収される社会になります。これが「税と社会保障の一体改革」の真の姿です。

リモートワークの問題点

「働き方改革」で提唱されているリモートワークの推奨にも、報道されない問題点があります。それは、労務管理の難しさです。会社のオフィスではない所で業務をすると、時間給では労務管理・人事評価が難しい事です。

ならば、完全に成果主義を導入して、働いた時間ではなく時間内に上がった成果で労働者を評価すればいい。この成果主義の導入は運用方法次第で長時間労働を助長する可能性があります。ここまでは、リモートワークの労働者から見た問題点です。

また、リモートワークには、導入する企業側に新たな負担(新規投資)を強います。それは、ICT投資です。特に、通信回線での機密管理(情報漏えい防止)は、企業に通信回線の整備という新たな出費(経費負担増)になります。企業にとっては、リモートワークで優秀な人材を確保したい、そして、機密管理も万全にしたい、という板挟み状態です。

柔軟な働き方という「働き方改革」

政府が提唱する「働き方改革」には、フリーランス(フリーエージェント)の推奨、起業の推奨という考え方があります。その背景には、副業・兼業は、企業のイノベーション力を高めるだけでなく、第二の人生への準備となる、としています。
また、現状を「 副業・兼業容認企業は全体の14.7%にすぎない」として、海外の事例も紹介しながら副業・兼業容認、起業を推奨しています。

企業がイノベーションを起こせないのは、副業を認めていないから、という理由です。ならば、副業、起業を認めて個人(労働者)にイノベーションを期待しよう、という政府の思惑です。

日本の企業組織が新しい発想の芽を摘んでしまう土壌を変えるのではなく、企業という土壌から個人の発想を切り出そうという事ですが、本当に個人を企業から切り出せばイノベーションが起きるのでしょうか?イノベーション(技術革新)にしろ新規事業にしろ、先立つものが必要です。つまりは起業資金です。

多くの場合、ベンチャー企業は銀行から融資を受けて技術開発のための資金とします。しかし、最近は銀行からの融資より、クラウドファンディングにより資金調達をするベンチャー企業や個人起業家が増えています。

こうしたクラウドファンディングはいわゆる民間の資金で、銀行のような旧態依然とした融資とは性格も発想も異なります。副業・起業によるフリーランス(フリーエージェント)の推奨は、クラウドファンディングの様な民活によってイノベーションを期待するという、政府は推奨だけで政治力を行使しない政策でもあるのです。

一時期「身を切る改革」、「痛みを伴う改革」が叫ばれた時期がありました。今回の「働き方改革」は、政府は身を切らず痛みもせず、民間の活力を掘り起こす改革なのです。

「働き方改革」に見る政策の隠れた連続性

「働き方改革」を働く立場から考え直してみました。
今回の「働き方改革」だけを考えるのではなく、その中身と以前の政策、例えば「マイナンバー制度」と政策を数珠つなぎで考えると、政府の隠れた思惑が見え隠れするのです。マイナンバーで税と社会保障の一体改革をうたい、「働き方改革」で副業を推奨し、この二つの政策を組み合わせて税収増を見込む。

スポットで政策を見ると危険です。いくつかの政策を連続して考えると、政策の隠れた意図があぶり出されます。

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