働き方改革

政府の副業推進は、弁当箱もないのに弁当を作れというようなものだ

基本、国や政府のやることというのは、うまくいかないことが多いですね。
これほどに景気が回復し、株価も上がっているというのに、一向に賃金が上がって来ないなどという例を出すまでもないのですが、少なくともドンとはじめてバンと結果が出るようなことはありません。
うまく結果が出ても、じわーっと出るものです。
もちろんそれは、複業や兼業を推進する働き方改革でも同じこと。
しかしそれは、もっと質の悪いことになっているようです。

その理念は非常に素晴らしい。

政府の働き方改革における副業の推進は、その理念において非常に素晴らしいものです。
まずそこには、労働者の当たり前の権利に関する見直しがそんざいします。

就業時間外の自由

それは、就労時間外の労働者の拘束に関する理想です。
つまり、雇用主は労働時間外における労働者の自由を阻害する権利はなく、就業時間以外をどう使うかは労働者の自由であるべきだという理想があるわけです。
これはまさにその通りで、これまでの日本型企業では随分と軽視されてきた当たり前の権利ですね。
さらに、優秀な人材の有効活用にもつながると、政府は見ています。

才能のシェア

しかも、一握りの優秀な人材を一つの企業が独占するのではなく、複数の企業がその才能を使えるようになれば、人材の確保も大きく進みます。
この才能のシェアとも言える状態も、政府の副業推進はもたらします。
これは、正に企業にとってはありがたいことなのですが、それだけではなく、労働者にとっても大きなメリットがあるのです。
それが、労働者の質の向上です。

労働者の未来につながる

労働者個人にとっても、様々な企業で働くことによって自らのスキルアップやキャリアアップにつながり、コネクションも形成できることで、可能性は大きく広がります。
収入の増加はもちろんのこと、ベンチャーに手を出しやすい環境も生まれるでしょう。
そしてこうした動きは、当然日本経済全体につながっていくわけです。

日本経済の魅力アップ

これまで、固定化して動きの悪かった日本経済にとっても、副業の推進は大幅な流動化をもたらす結果になり、政府にとってはこれが一番なのでしょうが、世界的に通用する日本経済の復活もあり得ます。
少なくとも、企業風土として日本の世界における魅力はぐんと上がるでしょう。
気を抜くとすぐにガラパゴス化してしまう傾向にある日本という国にとって、これは、世界の一部として必要な過程といっても過言ではないのです。

そう、この政府が提唱する働き方改革における副業の推進は、かなり素晴らしい理想とその結果もたらされる大きな利益を見越して推進されているわけです。
政府の考えることにしては、近年まれに見る立派さだといえます。
で、あるならば、この政府が推進する働き方改革の一環である副業の推進は、もっと社会において注目され、推進されるべきなはず。
しかし、まったくそれは広がっていきません。
それは、日本の社会がそれを受け入れる形を成していないからなのです。

日本は副業しづらい国である。

では今の日本の現状について、見ていきましょう。

もう本当にこれは絶望的な話ですが。
日本の政府がどれほど副業を推進しようと、労働者にその気があろうと、日本の企業の8割は副業を社内規則で禁じています。
つまり、副業をしたければ、日本の2割に満たない企業に勤めていないといけないということ。
しかも、本業も副業も、そのどちらも2割の中から選ばなければいけないのです。
いうまでもありませんが、実はこれこそが日本で複業が広まらない一番の原因であり、最大の障壁であることは言うまでもありません。

なぜ企業は副業を禁止するのか

ではなぜ、日本企業は政府の意向に従わず、副業を禁止するのか。
そこには、複数の理由が存在します。

①企業への忠誠。
労働者にとっては、これほどばかばかしいものはないですが、経営者にとっては大事な要素。
それが、企業に対する忠誠です。
この、企業に対する忠誠というものは、今でこそその言葉に疑問を感じおかしいと感じる人が多くなってきましたが、昭和の日本では当たり前のことでした。
というのも、昭和の企業にとって終身紅葉が当たり前だったからです。
企業に就職すれば、もはやその時点から墓場に至るまでのすべての場面において、企業による支援なくしては生きていけないという時代だったわけです。
である以上、企業は社員に忠誠を求めます。
人生をまるのまま受け持つ代わりに、その人生をまるのまま企業に差し出すことを要求するというわけですから、無茶苦茶な取引ではありません。
しかし、終身雇用のほぼ壊滅した現代では、かなりおかしな話です。
しかし、そういう忠誠心をもとに出来上がってしまった会社の風土やシステムは容易に変えることはできませんし、マインドに関して言えば、これは簡単にどうこうできるものではないのです。
そして、忠誠心で結ばれた関係に、副業などという選択肢はあり得るはずもないのです。

②機密の漏洩
とはいえ、さすがに忠誠心を持つことを強要する企業は減ってきましたし、社員もそれを簡単に受け入れません。
なくなってはいませんが、かなり少なくなってきたのが現実です。
しかし、逆にその忠誠心という企業と労働者のつながりが消えることによって、より危険性をもって企業に注目されているのが、機密の漏洩です。
副業というのは、一人の人間が複数の仕事をすることである以上、その職種は近似の物になります。
そして、その股にかける企業の職種が似通っていればいるほど、その二つの企業がライバル関係であったり商売敵である可能性は高くなるわけです。
そうなれば、その社員の持っているお互いの企業の情報の価値はぐんと跳ね上がります。
そして、そこにかつてのような忠誠心が無くなっていたら。
こうなってしまうと、言うまでもなく企業の抱える機密漏洩のリスクは大幅に増え、そして、そのことに対する警戒感は強くならざるを得ません。
そんな状態で、副業推進といわれても無理な相談です。

③労働時間はどう計算するのか
ここまで列挙してきたものとは違い、実務的にややこしいのがこの労働時間の計算です。
基本的に日本人の労働時間は8時間と決められています。
といっても、それはいわゆる形だけの物であって、ほとんどの人はそれ以上働き、その際に残業代を頂いているわけですが、この部分が非常に厄介になるのです。
というのも労基法38条の1項で、複数の企業に雇用されている場合労働時間は通算されるとされているからです。
つまりこういうことです。
たとえば一人の労働者が、A社とB社という二つの会社に雇用されていたとします。
この場合、この労働者が全く残業をせず8時間労働をしようと思ったら、A社とB社の両方で働いた時間の通算が8時間を超えてはいけないということになるのです。
さらに残業代を出すとなれば、余計にややこしくなります。
たとえばA社で8時間働いた後B社で8時間働いたとなると、通算ですから、B社で働いた8時間はまるまる残業ということになるのです。
つまりB社は8時間の残業代の支払い義務が生じます。
これでは、当たり前ですがやっていけるわけがありません。

④労災認定が複雑になる
残業の管理というのは、何も残業代の請求のためだけにあるのではありません。
たとえば、日本において月平均80時間以上の残業が認められた場合に過重労働による過労死が厚生労働省の基準で認定されます。
しかし、当然これは一つの企業に雇用されている場合です。
というのも、③で示したB社を例にすれば、月平均80時間の残業など10日も働けば普通に超えてしまうからです。
そうである以上副業における残業時間の算定は困難で、よって、副業における過労死の労災認定の基準となる時間は設定されていないのです。
となるば、副業によって過重労働を強いられ、明らかに過労死と思われるような死を遂げた場合でも労災認定されない場合が大いに考えられるということになってしまいます。
そして、死に至らなくても、傷病に関しても混乱は予想できます。
なぜなら、たとえば、働き過ぎが原因で病気を患ったと推定されるような場合でも、いったい副業をしているうえでどちらの業務がその原因であったかを特定するのが困難だからです。
これでは、労働者の権利も十分に確保されているとは言えませんよね。

つまり、企業が副業を禁止する理由は、副業を認めるには社会がそれを受け入れる体制になっていないからです
それは、日本の企業風土もあるでしょうし、伝統に基づいた日本的システムの問題もあります、さらには法律の不備やそれに伴う混乱による不利益の懸念もあるのです。

これでは日本企業の8割が副業を禁じていても無理はありません。
この状態で副業を推進しろなどと言われても、首を縦に振れないのは当たり前なのです。

まず箱を作らなければいけない。

つまり、それは、弁当箱も存在しないのに、弁当の内容を指定するようなものです。
しかも指定している相手は料理人で、当然弁当箱の作り方なんか知りませんし、購入しようにもどこにもその内容を収める弁当箱は売っていない。
そんな相手に、とりあえず弁当箱はそっちで何とかして、といわれても、そんなの無理です。
そんな注文は、断られても仕方がありません。
確かに、中には弁当箱どころか、いつもビニール袋におかずを入れているような料理人がいて、柔軟に対応できるなどという場合もあります、しかしそれは少数派。
つまり、二割の存在でしかありません。
そう、まずは弁当箱を用意しなければいけないのです、そして、それを用意するのは注文した人間の仕事です。
日本の企業風土を改善するのも、そして旧態依然とした日本的システムを改めるのも、企業や労働者を守る法整備を進めるのも。
いうまでもなく、それは、政府の仕事です。
労基法の見直しはもちろん、日本的システムを変えるために法律を作るのか、優遇税制を敷くのか、企業スパイを厳罰化するのかはわかりませんが、副業推進のために土壌づくりがまず先なのです。

政府の理想はいいでしょう。
働き方改革の理念は、本当に素晴らしいものだといっても過言ではありません。
しかし、理想をかなえるための社会づくりができていないうちに、いくら理念を語っても、それはただの夢想に終わります。
もし今後、現実的な施策がとられないのであれば、それは、夢を語って有権者をだます方便だったといわれても、仕方のないことなのかもしれません。

関連記事

  1. 副業解禁の流れ、企業に任せていてもいいのか?

  2. 常識を疑え!働き方改革は新しい常識の創出がキーポイント

  3. 副業(複業)は人手不足を解消するか?

  4. 「働き方改革事例まとめ②」雇用自由化がもたらす実力主義

  5. 2018年は複業元年か?その可能性に迫る。

  6. 働き方改革の落とし穴?NHKの『西郷どん』特別編に見る労働時間と顧客満…

PAGE TOP