「働き方改革」によって正社員であっても副業・兼業を認める動きが出始めています。
サラリーマンであってもネットビジネスなどで副収入を上げている人もいる現実で、政府の「働き方改革」はこれとは別次元で副業・兼業を後押ししています。
副業や兼業を後押しする背景やメリット・デメリットなどについて、ご説明しようと思います。
副業容認の背景・政府の言い分
厚生労働省が発表した副業・兼業に関するガイドライン案では、「労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的に労働者の自由」とした裁判例を明記したうえで、副業・兼業を認めれば、「自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる」としたほか、所得の増加、将来の起業・転職の準備などメリットを挙げています。
一方、副業・兼業を禁止し許可制にしている企業に対しては、労働者の申請・届け出制への転換する事で副業・兼業の容認を促しています。
副業・兼業の弊害として、就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康管理の必要性を喚起しました。
さらに、職務に専念する義務や秘密を保持する義務を意識することなどが盛り込まれています。
職場に出勤せずに自宅などで働く「テレワーク」についても、ガイドライン案が示され、長時間労働対策や労働災害の補償など留意点が記載されています。
好景気を背景とする人手不足解消、所得の増加、多様な働き方の提示、起業の推奨といった点などが政府が副業を容認する背景と言えます。
人手不足で企業の倒産
確かに、求人倍率が示すように、人手不足は慢性化しつつあり、2017年の統計で見ると、「人手不足」関連倒産は317件(前年326件)で、全体の倒産件数が減少するなかで、ほぼ前年並みで推移しています。その内訳は、「後継者難」型が249件、「求人難」型が35件、「従業員退職」型が18件、「人件費高騰」型が15件となっています。
産業別に人手不足による倒産の件数を見ると、2017年では建設業とサービス業他で約半数を占めていました。
産業別では、最多が建設業の79件、次いで、サービス業他が76件と続き、この2産業だけで48.8%を占めています。
このほか、製造業42件、卸売業39件、小売業26件の順で人手不足により企業が倒産しています。
副業について・企業の言い分
人手不足が原因で倒産するほど、深刻な状況にあって企業は副業容認をどう捉えているのでしょうか?
企業側の代表とも言える、経団連の副業容認への姿勢は一貫して消極的でした。2015年の調査では、副業を認めている企業は15%程度。最近の民間調査では中堅企業の約33%が認めているとの結果もありますが、大企業では取り組みが遅れているのが実情です。
さらに、経団連の榊原会長はある会見で、「副業・兼業について各社の判断でやるのは自由だが、いろいろな課題があるので、経団連としては旗振り役をする立場にはない」と発言し物議を醸しました。
この会見で榊原会長は企業の副業容認に関して、「副業・兼業は社員の能力開発というポジティブな側面もあるが、一方で、社員のパフォーマンスの低下や情報漏えいのリスク、両方を合わせた総労働時間の管理の在り方など課題が多い」としています。
人手不足の現状を知りながら、榊原会長は副業容認について社員の能力開発などメリットと長時間労働への危険性、労務管理面から見たデメリットを挙げているのです。
終身雇用制を長く引き継いでいた日本型企業が、規制緩和による恩恵で派遣労働者など非正規雇用により人件費の圧縮に成功しながら、今度は自社社員の囲い込みに動き始めた様相に見えます。
副業と複業(パラレルワーク)の違い
ここで少し話題を変えましょう。
副業に似た言葉で「複業」があります。両者の違いはどこにあるのでしょう。
副業は、本業とは別のサブ的な仕事を持つ事で、サラリーマンであれば勤務先外の業務で収入を得ること、あるいはその仕事自体を意味します。
一方、複業も本業以外の仕事のことですが、「副業」があくまで本業の片手間に行う所得補填を目的とした仕事という意味合いが強いのに対し、「複業」ではどちらが本業か明確に区別できないような時に使われます。意味としては「兼業」が分かり易いでしょう。
政府が推奨しているのも「兼業」なので、以降は複業を兼業に統一します。
兼業は所得補填を主な目的とせず、NPOやボランティア参加も含みます。
パワレルワーカーやパラレルキャリアといったより積極的なライフスタイルを目指すケースを指す場合もあり、副収入が目的の副業とは若干の違いがあります。
副業のメリットとデメリット
政府から「働き方改革」のひとつとして推奨されつつある副業ですが、メリットもデメリットもあります。
副業を始める個人の場合、副収入が得られる、という当然のメリットが挙げられます。
その他、豊富な人脈を築ける、起業・転職のためのキャリアアップなどプラス面が強調された報道が目立ちます。
しかし、反面でデメリットに関する報道が少ないように見えます。
副業の個人面での第一のデメリットは、自由な時間が減る=労働時間が増える事です。
24時間、1週間中7日という時間配分は平等ですが、その時間を本業と副業にどう使い分けるかは個人の裁量に任されます。結果、収入は増えたけれど総合的な労働時間も増えてしまいます。しかも、本業と副業の合計労働時間を管理監督する法律は現時点では存在しません。
今でも長時間労働がニュースになる御時世で、副業の労働時間を制限する法律がなければ、確実に個人レベルで労働時間は長くなるでしょう。
労働時間だけでなく、第二デメリットは労災関連の法律が不備である事です。勤務中の事故はもちろん、通勤中(本業から副業への移動中)の事故を保証する法律もありません。
こうした法律面が未整備なまま、副業・兼業を推進するのは拙速と言えます。
副業は人手不足を解消するか?
人手不足解消をひとつの目的に上げる副業・兼業ですが、本当に人手不足解消に有効な手段なのでしょうか?
政府が経済目標として掲げる名目GDPを600兆円に引き上げる場合、現在の就業人口6,400万人に対し、7,800万人が必要との試算もあります。単純計算で1,400万人働く人を増やす必要があるのですが、女性、高齢者、外国人を就業人口として期待するとしても、300万人程度しか確保できそうもなく、到底1,400万人の就業人口増加は厳しいのが実情です。
副業・兼業容認は、サラリーマンの副業を、女性、高齢者、外国人に次ぐ第4の働き手として、増やす新しい経済対策としたい政府の思惑が見えます。
ここで、先述の人手不足による企業倒産の統計を振り返ってみましょう。
2017年で建設業とサービス業他で人手不足による企業倒産が約半数でした。
これに製造業、卸売業、小売業と続きます。
では、月曜日から金曜日まで1日7時間働いた人が副業として、週末や平日の夜間に建設業、サービス業で働きたい、と思うでしょうか?
18時までデスクワーク、20時から22時まで居酒屋で副業という名前のバイト。
平日は工場勤務、週末はオリンピック関連土木工事の副業で地方まで遠征する。
つまり、少なくとも人手不足による企業倒産は今働いている人のマインドを想像すれば、副業で人手不足は解消しないのです。
人手不足は、建設業、サービス業、卸売業など流通業だけに限りません。
IT業界は慢性的な人手不足と流動的な人材で悩んでいます。
経験値の浅い、あるいはブランクのある人材をIT企業が副業ワーカーとして受け入れる、という構図は想像出来ません。
ただでさえ長時間労働が常態化しているIT業界に進んで働こうという副業志望の人は少ないと思います。
IT企業に付き物の守秘義務や機密保持契約も複雑になります。
副業と人手不足まとめ
副業で人手不足を解消しようとする思惑とその実現性を検証してみました。
労働者と雇用者の希望が一致しない限り、副業では人手不足は解決しません。
パラレルワーカー
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