複業(パラレルワーク)

複業でも採用する企業

かつての日本の企業は、副業あるいは複業を禁止していました。
最近になって自社の社員の副業を認める企業も出始めました。しかし、それまでの日本企業は終身雇用が前提で、副業など認めてこなかった歴史があります。

「平成26年度 兼業・副業に係る取組み実態調査事業報告書」(経済産業省調査)によれば、副業を認めていない企業が96.2%を占め、容認している企業はわずか3.8%、推奨している企業はゼロでした。日本において「副業禁止」がこれほど浸透していた理由は、高度経済成長期における成長モデルとその慣行がとてもマッチしていたためと言われています。昔から「御恩と奉公」の文化がある日本では、「終身雇用」と「年功賃金」という御恩を企業が与える代わりに、残業・休日出勤・転勤などは当然のことだという奉公の真理が働いていたのでしょう。

副業をする社員たち

しかし、過度の残業などいわゆるブラック企業が問題になり、経済状況も高度経済成長期のような伸びが期待出来ない時代になりました。そんな背景から社員たちは収入の増加を狙って副業を始めたのです。ITが普及し、ネット空間で副業・起業をしやすくなった事情もあります。

例えば、自分のスキルで空き時間を使って副収入を得るスタイルの「ランサーズ」というサイトには150万人も登録者がいます。ネットでの副業という事で、Webエンジニアからライター、デザイン、翻訳など自宅で作業が出来る副業がほとんどです。

副業を認める企業

一方、長い間社員の副業・兼業(複業)を禁止していた企業もようやく複業を解禁し始めました。政府の「働き方改革」により、多様な働き方が推奨されるようになり、その一環として複業が注目を浴びています。複業が推奨される背景には、人手不足があげられています。人材不足が深刻になる中、フルタイムでなくても手伝って欲しい仕事は山ほどあり、一人が複数の会社で働ければ、相当の人材不足問題を埋められるはず、というのが企業側の思惑です。そうした人手不足の事情を受け、実際に複業でも採用を始めた企業もあります。

・リクルート
・メルカリ
・サイボウズ
・サイバー・バズ

上記は、副業(複業)での採用を始めた企業の例です。Webビジネス系の企業が目立ちます。これには政府が推奨する「テレワーク」など会社のデスクでの作業が必須ではない、という特徴を活かした複業採用の理由があります。テレワークを導入出来る業種・業務は現状限られていますが、今後「働き方改革」が浸透し、社員も企業も複業に関して積極的になると思われます。

複業採用のメリット・社員の場合

今後複業が進むと社員にはどんなメリットが生まれるのでしょうか?

収入の増加

ますは、この収入面でのメリットは大きいでしょう。複数の収益源を得ることは、個人の給与総額を底上げするだけでなく、万が一、片方の会社が業績悪化した場合のリスクを軽減でき、収入の安定化につながります。

マネジメント力の向上(生産性向上)

今でも、育児・介護など、フルタイムで働けない人たちを束ねていくマネジメント力が求めらています。今後、複業でフルタイムではなく、短時間を複業にあてる自分の部下たちと向き合うことは、新時代の管理職やマネージャーにとってトレーニングになるでしょう。普通の人間が同じことに集中できるのは1日のうちに数時間程度と言われています。

同じ会社で同じ仕事を長時間続けてもらうのは効率が悪く、気分転換や集中のため複数の仕事を掛け持ち(複業)するのは生産性向上の観点からも肯定的とする危険もあります。

一方で、複業を自ら選択した場合、セルフマネージメント能力が問われます。短時間で高い成果を挙げ続けないと複業の意味がありません。成果主義が導入されれば、複業を監視する方向に向かうでしょう。

社員の自立を促進

「明日から複業してください」と言われたら、戸惑う人も多いでしょう。
自分は誰のためにどんな価値を提供できるのか?社員は厳然と人材市場と向き合うことになります。長年勤めてきた大企業をリストラされてからでは遅いのです。複業は個人の人材市場でのサバイバル力を高めるとともに、他人とは違う自分自身の人生を考えるきっかけになるのです。自分で自分の価値、強みを見つけられない人には複業は不向きです。

複業採用のメリット・企業の場合

一方、複業する社員を採用する企業側にもメリットがあります。

ベンチャー支援

日本の人材流動性は低く、ベンチャー企業を起業しにくい土壌があります。多くのベンチャー企業では優秀な人材を求めていますが、フルタイム分の給料は払えない事情があります。そのため、大企業にいるスキルの高い人たちが、ベンチャー企業で複業できれば、日本のベンチャー企業は大いに活気づくでしょう。

ベテランの再活躍

メジャーリーグの第一線で活躍できなくなったからといって即引退する必要はないのです。日本のプロ野球に戻って新たな活躍を見せる選手も多く、副業は最前線で活躍してきたベテラン社員が、新しい活躍場所を見つけ出す助けにもなります。複業での採用は「一億総活躍時代」のニーズにもマッチした企業の新しい人材戦略になるでしょう。

イノベーションの創造

イノベーションはいつも新結合から創造されています。
異分野の知識が新しく結合された時に、それまでにないユニークな製品やサービスが生まれます。複業はプロジェクトメンバーが自社では得られない異分野の知識を獲得することを促進し、イノベーション創造につながるでしょう。新しいサービス、製品を開発する部門では、複業社員を採用するメリットが新しい価値観として生まれます。

コストのかからない研修

複業を推奨・認可することで、社員が会社の仕事では経験できない幅広い体験をすることが期待できます。例えば、経理部員が営業やマーケティングの知識を必要とする副業を行えば、経理以外のスキルを身につけることもでき、営業社員の気持ちも理解できるようになります。

本業と同じ、または隣接した分野で副業を行うとしたら、副業側で新たに取り組んだことによる知識や体験、人脈などを本業側に持ち帰り、それを会社の仕事に活かすことも可能です。会社側から見れば、こうしたことを研修なしに、コストゼロで実現できることになります。

複業採用の課題

社員・企業の双方にとってメリットのある副業・複業での採用ですが、課題も残ります。ひとつは、複業している社員の所得の把握です。本業側の企業は社員の本業分しか所得(給与)を把握しておらず、複業側の企業も同様です。所得に応じて課税されるのが、所得税の原則ですから、これは「税金逃れ」が発生し、問題があります。

そこで、この本業と複業の二重所得問題を解決するのが先に導入された「マイナンバー制度」です。
現状、国民ひとりひとりの所得について把握する運用になっていませんが、社員は本業でも複業でもマイナンバーを企業に提出する義務が法整備されれば、マイナンバーで個人の所得を特定するのは簡単になります。「行政の効率化、国民の利便性の向上、公平・公正な社会の実現のための社会基盤」を目的に導入された「マイナンバー制度」ですが、実は副業を追認するための国民の総所得を把握する布石に過ぎなかったのです。

複業採用の課題のふたつめは、長時間労働です。24時間はひとりひとりに公平に与えられた時間です。その中で本業と副業をこなせば、当然、総労働時間は増えます。本業で採用した企業も副業で採用した企業も、成果さえ出せば互いの業務時間には責任はありません。成果を出すために社員は総労働時間を増やさざるを得ず、結果として労働時間は長くなるでしょう。セルフマネージメント能力のない人に副業が不向きな理由はここにもあるのです。

複業(副業)採用まとめ

副業・複業に関して企業が採用した場合のメリットなどをご説明しました。製造業など複業に不向きな産業形態もあり、一概に複業がポジティブかどうかは断定出来ません。副業・複業に適した業種、個人、企業などこれから淘汰されるのではないでしょうか。

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パラレルワーカー

肩書はCHROではありますが、基本はマーケティング全般や事業企画などが得意で過去には副業紹介サービス「プロの副業」も立上げました。

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