複業(パラレルワーク)

複業とパラレルワーク、その光と影

本業の仕事で培った経験を活かして会社以外の仕事やNPO活動に従事するプロフェッショナルが増えています。
ここでいうプロフェッショナルとは、本業で自他ともに認める成果を挙げながら複業でも確かな成果を挙げている人たちです。
ただの小遣い目的で時間を切り売りする副業者や、月明かりの下で会社に隠れてこそこそ副業を行うMoon Lighterではありません。
2枚目の名刺、パラレルキャリア、複業、マルチプルジョブ。様々な言い方がありますが、今回は「複業とパラレルワーク」と題して、本業ともうひとつの働き場所を持つ人たちを複数の観点からご紹介します。

パラレルワークの本当の姿が見えるかも知れません。

今までの日本的雇用慣行

日本の企業はこれまで、従業員に兼業・副業を認めていない企業がほとんどでした。
2014年の「兼業・副業に係る取組み実態調査」(中小企業庁の調査)によれば、兼業・副業を認めていない企業は85.3%と圧倒的多数でした。
また、厚生労働省のモデル就業規則にも「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と記載されていました。

厚生労働省のモデル就業規則の規定は多くの会社の実態にのっとったものです。
なぜ、会社は就業時間以外の副業を禁止しているのでしょうか。
主な理由は本業に支障をきたしたり、機密漏えいを防ぐためとされています。
さらに、自社に忠節を尽くして働いて欲しいという前時代的な終身雇用制度下の日本的雇用慣行が背景にあると言われています。

しかし、現代になって労働市場は流動的になり、終身雇用制度も過去のものとなりつつあります。

これからの働き方

そうした時代の背景を受け、政府は副業・複業の推進を呼びかけています。
その最大の理由は、成長戦略として経済成長の後押しを狙っているからなのです。複業推進の具体的な効果として期待されるのは、イノベーションの促進、人材確保、人材育成、可処分所得の増加、創業・起業の推進、労働市場の流動化などが挙げられています。

つまり、優秀な人材が持つ技能を他社でも活用することが新事業の創出などにつながり、人材を分け合うことで市場全体の人材確保にも寄与すると考えたのです。
社員にとっても、他社で働くことで自社にはないスキルを獲得し、キャリアアップにつながり、複業・副業をきっかけに起業する人も増えて、なおかつ収入も増える。
会社と社員双方にメリットがあり、大局的には経済成長にも寄与するというのです。

これからの複業を巡る働き方は、禁止・制限から黙認・容認の過渡期を経て、奨励・促進へと大きく転換したのです。

少子高齢化社会の眠れる労働資源

大きな社会問題である少子高齢化。
政府の調査では、高齢人口の総人口に対する割合を示す高齢化率は2010年(平成22年)の23.0%から、2013年(平成25年)には25.1%で4人に1人を上回り、50年後の2060年(平成72年)には39.9%、すなわち2.5人に1人が65歳以上となることが見込まれています。
こうした高齢化社会においても、日本にはまだ使われていない経営資源(労働人口)がたくさんある、指摘する人もいます。
それは、「個人に蓄積された多くの知識や経験です。それら優れた人的能力を、従来のように1つの会社が抱え込むのはあまりにもったいない。1人の人間が2役、3役こなす複業は減少する人口にも対応できるし、蓄積された経営資源の多重利用はイノベーションを生む」というのです。
複業により、一人が一人分の生産量(業務量)を生むのではなく、2倍3倍の付加価値のある製品やサービスを創り出すというのです。

確かに、複業は数字の上では2倍3倍の生産性を上げるはずです。
そこに落とし穴はないのでしょうか?
複業の隠れたデメリットについては後述する事にして、労働資源として複業を捉えるもうひとつのパラレルワークがあります。

仕事ではない複業・パラレルワーク

複業やパラレルワークというと、2枚目の名刺、マルチプルジョブなど複数の企業で働くイメージがあります。
しかし、パラレルワークはワーク(働く)だけとは限らないのです。
パラレルワークとして、ひとつの確立された感があるのがボランティアの分野です。
仕事をしながら、自分の興味のある分野や自分のスキルや仕事上のキャリアを活かせるボランティアを両立している人は少なくありません。
例えば、町の清掃活動や福祉施設の訪問、そして介護への参加などその内容は多種多様です。
地域での通学児童の見守り活動や、NPOにおけるチラシ作りなど、特別なスキルではなく、熱意や興味・情熱といった物差しで参加出来る活動もあります。
もちろん人によっては、海外支援活動や国際交流、NGO、被災地ボランティア活動など多くの時間と経験・キャリアを必要とする仕事もありますが、フリーランスとして個人で働く人やリモートワーカであれば両立は可能です。
パラレルワークとして、NGOやNPOで働く人を募集するサイトもあるくらいで、実は一番パラレルワークとして定着し、実際に動いているのはこうした社会活動への参加かもしれません。
それに、本来パラレルワークとは生き方を指す言葉ですので、何も団体への所属が必須事項ではないのです。
独立してフリーランスという働き方があるようにフリーランスのボランティアワーカーも生き方としてありなのです。

パラレルワークのデメリットと幻想

一人で二役三役をこなす、パラレルワーク。
タイムマネージメント能力が問われそうです。
人は締め切りや時間に追われた方が生産性が上がる、という人がいます。
また、複数の仕事に取り組めば、自然と時間管理能力があがるとも言われています。
本当でしょうか?
ひとつの事に集中出来ない人が、複数のタスクを時間、曜日を分けて遂行出来るとは到底思えません。
「時間管理能力が必要になる」という事は、「時間管理能力のない人にパラレルワークは向かない」と同じ意味です。

複業・パラレルワークでは集中力を細切れにして、瞬発力のある働き方が求められます。午前はデスクワーク、午後は屋外でボランティア活動といったマルチタスクは精神的にも体力的にも疲労を伴うでしょう。
それに耐えうる人だけが、複業・パラレルワークをすべきなのです。
時間管理能力もない、集中力もない、そんな本業でのスキルのない人は複業をすれば必ず、本業の生産性も落ち、効率の悪い働き方になります。

パラレルワークのデメリットは、パラレルワークが出来る人と出来ない人を社会的に分断する事です。
パラレルワークが出来る人=生産性が高い人、つまり、高い報酬も得られる。
パラレルワークは賃金格差を拡大する可能性のある、諸刃の刃です。
複業・パラレルワークが完全に容認・推奨されれば格差社会が広がるかも知れません。
要領のいい(生産性の高い)人はパラレルワークで複数の収入源を持ち、スキルのない人、時間管理能力がない人は旧態依然とひとつの企業で終身雇用を夢見るか非正規労働者となってアルバイトの掛け持ちをするか。
そうした危険性を隠しているのが、パラレルワークの幻想です。

複業とパラレルワーク、その表とウラ

ここまで、複業とパラレルワークが推奨されている背景や理由についてご紹介しました。
複業とパラレルワークが推奨される光の部分と幻想とも言える影もご説明しました。
何事にも表とウラがあり、政府や大手企業が採用した制度だから、と諸手を挙げて導入するのは拙速かも知れません。

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