働き方改革

フリーエージェント(フリーランス)という働き方

日本には長い間、「終身雇用」という考え方がありました。
一度企業に就職したら、定年退職するまで同じ会社に勤めあげる。退職金をもらって悠々自適の老後生活を迎える。
そんな人生設計が大きく変わろうとしています。

転職も自由、企業に籍を置きながら副業や週末起業だってする。そんな新しいスタイルを提唱しているのが「働き方改革」です。
少子高齢化に伴う労働人口の減少、生産性向上の停滞の対策として働き方を変える事で打破しようとしています。

「働き方改革」は、「残業時間」、「フリーランスを含む勤務形態の多様化」、「リモートワーク」など、「労働者の外」に焦点を当てています。
しかし、肝心な「労働者自身は何者で、労働者の意見は何で、今後どんな未来を実現したいか」という「労働者の責任と自立」を置き去りにしているのではないでしょうか。

今回はそんな「働き方改革」でも提唱されている「フリーエージェント(フリーランス)」という働き方についてご紹介します。

フリーランスに関する政府の意見

「働き方改革」における、政府のフリーランスに関する意見を引用します。

”「働き方改革」は最大のチャレンジであり、「兼業・副業」や「フリーランサー」のような、「時間・場所・契約にとらわれない、柔軟な働き方」は、働き方改革の「鍵」となると思っています。
日本経済が今後もしっかりと成長していくためには、従来の「日本型雇用システム」一本槍ではなく、兼業・副業や、フリーランサーのような、「雇用関係によらない働き方」によって、働き手ひとりひとりの能力を、最大限に引き出すことが必要です。”

つまり、フリーランサーに代表される雇用関係とは無縁な柔軟な働き手で日本経済を成長させる、と言っています。
では、日本経済成長の鍵となる、フリーランスの人たちの日本での現状を次にご紹介します。

フリーランス、フリーエージェントの現状

フリーランス、フリーエージェントの定義は働き方を示し、税制上は「個人事業主」となります。
働き方のひとつの手法であって、フリーランスはその形態がカテゴライズされます。
一般には、フリーランスには4つのタイプがあります。

1.副業系すきまワーカー

本業は常時雇用されているが、副業としてフリーランスの仕事をこなせるワーカー。

2.複業系パラレルワーカー

雇用形態に関係なく複数の企業と契約ベースで仕事をこなすワーカー。

3.自由業系フリーワーカー

特定の勤務先はないが独立したプロフェッショナル。ノマドワーカーなどとも呼ばれます。クリエイター系のプロフェッショナルワーカーです。

4.自営業系独立オーナー

個人事業主・法人経営者で、1人で経営をしているオーナー。代々続く個人商店や弁護士、歯科医師など士師業も含みます。

これらの4つのタイプのうち、政府が「働き方改革」で推奨しているのは、「副業系すきまワーカー」と「複業系パラレルワーカー」でしょう。
どちらも固定化された雇用関係がありません。
フリーランサーは自らの意思で選んだ働き方ですが、その環境は必ずしも恵まれているとは限りません。

例えば、収入の面でのアンケートでは、「個人請負」がほかの賃金労働者に比べ、仕事の自由度・非拘束度、仕事のやりがいの面では比較的高い満足度を示している
一方、収入の水準や収入の安定性についての満足度が低いということがわかった。」としています。(「個人請負の労働実態と就業選択の決定要因」より)
自由でやりがいがあるものの、収入面での不安・不満の原因は不公平な契約にあります。

企業が外部の労働力(企画力)としてフリーランサーと契約する際に、発注主である力関係を悪用して、フリーランサー(受注側)に不利な契約を強いるケースもあるのです。
また、フリーランサーは税制上、個人事業主・個人経営であるために、社会保険、企業年金が適用されず、社会保障面でもほかの賃金労働者に比べて不利益となります。
実際に、労働政策研究・研修機構の「業務委託契約従事者の活用実態に関する調査」によると、業務委託企業のうちフリーランサーに何らかの社会保険(雇用保険、労災保険など)を加入させている企業は、全体のわずか5.8%に過ぎない、という驚くべき実態もあります。

フリーランス、フリーエージェントの現状・アメリカの例

日本のフリーランサーたちが、社会保障、福利厚生、契約内容などで不利益を被っている実態をご紹介しました。
海外の例、アメリカの実態にも目を向けてみました。
「Freelancing in America 2016」の調査によると、アメリカではフリーランサーの半数以上が過去6ヶ月以内に教育訓練を受講しています。これは、フリーランサー以外の層よりも多い割合で教育訓練を受講しているのです。
アメリカのフリーランサーは、教育面で優遇されているのでしょうか?

実は、ノンフリーランサー(雇用者)は職務要件のために受講する者が多い一方、フリーランサーは仕事の獲得を目的とした教育訓練受講が多いのです。
つまり、フリーランサーは次の仕事を得る必要に迫られて自ら進んで教育訓練を受けているのに対し、ノンフリーランサー(雇用者)は今の仕事のために教育訓練を受けている、という能動と受動ほどの違いがあったのです。

教育訓練だけでなく、税制面でもアメリカのフリーランサーは不利なようです。
企業側が直接雇用をした場合は、個人所得税、地方税や州の傷害保険等があり、社会保障税やメディケア税と呼ばれるコストが負担となる。しかし、フリーランサーという形にしておいた方が、企業の周辺的コストがかからないのです。
一方で、フリーランサーは自営業者税(セルフエンプロイメントタックス)がかかり、企業が一部負担してくれる税金もフリーランサーが払う仕組みです。ただし、企業側が負担を相当する部分は後ほど控除され、企業側が一番コストを逃れる制度設計となっているのです。

残業についても、週30時間を超えて働く従業員には健康保険の加入が義務付けられているため、企業は従業員の多くを30時間を超えない働き方にコントロールし、また、雇用者(従業員)と認定される人をフリーランサーの契約に変更する事で健康保険の支払いを免れています。

このように、アメリカでもフリーランサーは企業に比べ、不利な扱いを受けています。

誰のためのフリーランスか?今後の課題

「働き方改革」で推奨されているフリーランス、フリーエージェントですが、残念ながら日本でもアメリカでも、制度は企業の味方でフリーランサーたちには働き難い環境と言えます。

日本でもフリーランス、フリーエージェントを推奨するために、今後の課題を検討し始めています。
まずは、不当な契約関係を是正するため公正な市場ルールの整備が急がれています。
「平成 26 年度 今後の在宅就業施策の在り方に関する検討会報告書」によれば、在宅就業者(フリーランス)と発注者側の関係について、「どちらかといえば依頼主と比べ立場が弱い」、 「依頼主と比べて立場がかなり弱い」と回答した在宅就業者の割合は 33%を占めている事からも、公正な市場ルールの整備は急務です。

自由とやりがいを求め、フリーランスの立場で働く事を選択しても、現状の制度や慣習に不公平、不利益を甘受している。
「働き方改革」でイノベーションのためにフリーランスを推奨しながら、フリーランサーのための制度が未整備なのは、政策の片手落ちではないでしょうか。

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